FINAL FANTASY VI ...cefca's SIDE STORY ...
実験開始から約1年経った頃。
ガストラから突然のように命令が下った。
曰く、「セリスに武術を仕込め」
皆一様に驚いたが、一部、シド、テュルク、ケフカと女たちはそのわけを知っていた。
それは命令が下る三日前の事。
セリスが沢山の食器を持って一人で廊下を歩いていた時だった。
頃は真夜中、研究員たちの夜食が終って部屋へ戻った、その片付けの最中だ。
角を曲がって5メートル置きのランプの灯りの中に、ふと影が揺れた気がした。
この区画は女たちの仕事場で研究区域からは外れている。
なのに、その影はしなやかな細身の男のものだったのである。
”誰っ……?” セリスは動揺した。
息を飲みそっと覗いてみると、黒装束の男があたりを見回しながら音も立てずに忍んで行くところだった。
明らかに怪しかったが、1年の研究所暮らしで研究員の中には変わった趣味の……
ま、はっきり言ってしまえば変人がいる事を、十分に、知っていた。
だから決めつけるわけにもいかず、セリスは男の後をついて行くことにした。暗がりを選んで。
男は少女には気がつかずに――後になってはお笑い種だが――ぐるぐると同じ所を回りながら、それでも確実に研究区画へ近づいていくのだ。
一つ一つドアを確かめながら。
やはりここの関係者じゃない?……でも、どうだろう?
セリスが眉を寄せて悩んでいると、向こうから二人の女がやってきた。男はサッと角へ隠れた。
そこを過ぎれば一本道になり、渡れば研究区画へ入るところだった。
盗賊……?!
研究は最重要事項でまだ他に知られてはならない事だと聞かされていた。
そんな事はどうでも言いとしても、みんなに危害を加えるのなら、それはいけない人だわ。
彼女は一気に緊張を深め、ぎゅっと彼女は食器の入ったバスケットを握り締めた。
女たちは何も知らずにぺちゃくちゃとしゃべりながら近づいてくる。
男の背中がわずかながら盛りあがり、腰からすらり、と炎を反射させるものをとりだした。
ナイフ……ミスリルナイフだった。男はそれをゆっくりと構えながら、踵を浮かして身体を軽く揺らしている。
どうしよう、おばさん達に教えなきゃ!!と思った瞬間に男は移動し始めた。
セリスの手はその食器の中にあった肉骨きり用のナイフを知らぬ間につかんでいた。
無意識に、ミスリルナイフに勝てるのはこれしかないと判断したのである。
そして距離も。
一瞬。
光の中に男は姿を現した。
女たちが顔を青ざめさせて、持っていたものを取り落とした。
男が女に凶刃をつきたてようと身体を乗り出した。
セリスは駈け出して、両手に持った骨切り用ナイフで男の足――他を攻撃しようにも背がなかった…!――に横殴りに斬りつけたのである。
「ぐわっ?!」思いもかけない痛みに男は床に倒れながらも、その小さな襲撃者に向かって身体をひねり、ナイフを閃かせようとした。
その前にセリスは素早く態勢を立て直すと思いっきり男のそれに自分のそれをぶつけた。
火花が派手に散り、なんと驚いたことに男の手からミスリルナイフは飛んで鋼鉄の壁に突き刺さって、びんと震えた。
男は腕を使って子どもを昏倒させようとしたが、その子どもは返す刀で両腕を断ち。
急襲に成功したセリスはきっと凛々しく(女たちには見えた)手のものを男の首に突きつけて、こう叫んだのである。
「動かないっ! 動くとどーなっても知りませんからねっ!」
それを見た女たちは、この動きと力、この子は戦士になるべきではないかしら、と思わず思い、
そしてその「ものすっごく恐ろしかった体験談」と「これ以上ない素晴らしい思いつき」を他人に話さずにはいられなかった。
そう言う経路で話を知ったシドはガストラへの報告書にそれを書いた。
それが、最初の命令につながった、と言う顛末だ。
セリスはすこし目線を伏せると、すぐにこくんと頷いた。
「皇帝陛下(この頃にはもう言えるようになっていた)の命令なら。
それに、自分の身を守るために闘い方も知っておかなきゃ。」
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ふう、やれやれ。
シドはため息をついて、バラの手入れを始めた。
今日はもう何度目かになるセリスの魔法発動実験が初めて成功した日だった。
何か褒美をやったほうがいいだろうな。
女たちがいろいろやってたみたいだが、わしからも何か、特別なものを……
シドはセリスが来てからというもの、かなり多くの間、彼女に接してきた。
それは単に彼女を知るためだけでなく、彼には誰もいなかったからだ。
あらゆる事に興味を持ち研究に捧げてきた彼のプライベートは、周囲から見るとあまりにも無味乾燥だった。
異性に興味とてなく、あふれる愛は全て研究に対してのものだった。
時々胸の空虚さを眺めやることもあったが、彼はあきらめ半分で「研究器具たちが結婚したのさ」と肩をそびやかすことで無視した。
そこへ、セリスはやってきた。
親を知らぬ、幼けき子。
実験に使うとはいえ、成長を見守ると言うその過程は親にも等しき感情を彼に与えた。
機械のような彼の心が、少しずつ脈打つような。
そうじゃ、とシドは考えた。
あのバラをセリスにあげよう。
きっとよろこぶに違いない。
その夜、告白でもしに行く若者のようにドキドキしながら、一つの植木蜂を抱え、シドはセリスの部屋をノックした。
セリスはいつもなら、この時間は洗い物のお手伝いをする時間だったが、部屋にいた。女たちの労いでお休みをもらったというわけだ。
疲れてる。と、マクラをベッドの上で抱きながら思った。
博士が言ったとおりだわ。ちょっといつもより疲れてるみたい。早く寝よっと。
その時、部屋がノックされた。
顔を出すなり、彼女のまっしろいほっぺたは紅潮した。
シドの胸に抱えられている大輪のバラ――見たこともない、白い、青く見えるほどの純白のバラが、その鉢には一輪、咲いていたからだ。
彼の趣味に、新種のバラの開発があった。
誰にあげるとか、そんな目的ではない。とにかく、凛としたバラが好きだったのだ。
そして、自分で作り出したい色があった。
数年前から魔法研究の合間を縫ってそのバラの開発にいそしんでいたのだ。
それは、その結晶だった。
シドはセリスの手に鉢をそっと置き、
「君にあげよう。今日のご褒美じゃよ。わしの造ったどこにもない、世界で一つのバラじゃ」
「…………すごい、すごい、シド博士、ありがとう! なんてゆうの?」
きょとん。
「名前かの?」
こくん、とセリスは目を輝かせて彼を見つめた。
正直、名前まで考えてなかった。だが、この子の顔を見て、すぐに決まった。
「”セリス”じゃよ」
「えっ?!」
「”セリス”というんじゃよ。お前の名を取ってな……
その花は時間が経てば枯れてしまうが、ちゃんと水と肥料と愛情をやればまた蕾をつけ、花を咲かせる。
大事に出来るかな?」
セリスは何度も頷いた。
「うん! 絶対! ありがとう、ほんとうにありがとう! 大事にする! 一生の宝物にする!」
「うん……」シドは目をちょっとそらして、また戻した。
「大事にしてくれ。
育て方はまた訊きにくるといい。
今日は疲れたろう、もうお休み、セリス」
「おやすみなさい、シド博士! 本当に、大事に、大切にする!」
セリスが心から喜んでいる顔を見て、彼の心は今までで一番幸せだった……!
セリスはというと、パタンとドアを閉めた後、その鉢をどこに置こうか迷ったが、結局カーテンのついている窓辺に置いた。
良く見える。
寝る支度をすっかり済ませて、灯りを消して、ベッドにもぐりこんだ。
ふとバラに目をやると、バラが月明かりにきらきらと虹色に輝いているのを発見し、驚きの声をあげた。
そして、ずっと一番中寝ないで、飽かずにそれを眺めていた。
.......... TO BE ...........................................
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