ファイナルファンタジーVI cefca...1

 

 

 

声が、聞こえる。

夕暮れの、あの空。薄いスミレ色にも似た、闇の中に。

僕の、名を、呼ぶ声が。

” ケフカ ・ ・ ・ ケフカ ・ ・ ・”

うるさい・・・なんだよ・・・

” ケフカ ・ ・ ・ ケフカ ・ ・ ・ ”

うるさいな、眠っているんだって! さっきから何回も言ってるの。

言ってるのに。

” ケフ ”

邪魔するなってばっ!!

 

 

がつっ

「いてっ!」

その一発で目が覚めて、少年は飛び起きた。

なにが怒ったのかわからない様子だったが、痛みを感じたのか、手を見た。

赤く腫れている。

どうやらベッドの角に思いきりぶつけてしまったようだ。

狭い部屋を見回したが、同室の同じ帝国軍兵士である男が隣で無防備にイビキをかいている以外、べつに物音はしない。

むきだしの壁のひんやりとした冷たさに腫れた部分を当てて、ケフカはほうっと息をついた。

ストレートの金髪に無事なほうの手をやり、クシャっとかきまぜる。

白い額に、汗がびっしりと珠を作っていた。

この兵士訓練所の来て以来でさえ、いままでこんな事はなかったのにな・・・

悪夢に悩まされるなんて。

___声が、闇の中に響いてくる。何人かの声(特定したくても、エコーがかかって良く分からない)が、

彼を呼ぶのだ。女の声、男の声。無機質な声。気味が悪い。

それが毎晩のようにここ一週間、襲ってくる。

一週間、前。でも、だからなんなんだ?

何かあったかといわれれば、その日はガストラ帝国軍である彼等の主人たるガストラ皇帝が、

普段は気にもしないはずの下級兵舎まで視察にやってきた日だった。

ケフカは帝国軍の中でも一番下級である見習い兵士である。普通なら皇帝陛下など目通りならない身分。

本来なら。

だがケフカは違った。一種の特権階級にあるのだ。

彼はまだ徴兵年齢に達してはいない。

なのにここにいる訳は、早い話、親を失った孤児だからである。

ならば孤児院にと話は進んだのだが、ガストラ自らそれを許さず、兵士訓練所で預かるようにと勅令を出した。

おそらく、古く、血は魔大戦の頃へ遡れる由緒ある家柄であること。

さらになくなる前の彼の父は親衛隊にあったこと。

そして、帝国一の蔵書を誇る私有の図書館を保有している、学者の一族、パラッツォの最後の直系であること。

この理由から、だろうと一部の者はうわさしている(一族の分家も例外ではない)。

そしてまことしやかに、彼自身が年少にして並々ならぬ膨大な知識をもっており、それを擁するためだとも。

いかにうわさされようと、ガストラに引き取られたのは事実である。

そんな待遇なのに軍隊で最下級なのは、自ら望むべくもなく、剣の腕がさっぱりだからであった。

 

視察は不意であった。ちょうど、一日のカリキュラムに入る準備にいそがしい時刻だった。

不意の来訪に追い立てられるようにして整列させられた後も、

ご真影さえ拝謁したことのない平兵士達がざわつく。

「おい、しってるか」とケフカの隣の男が小突いてきた。

「皇帝陛下はよ、いけにえを探してるってぇうわさだぜ」

「は、イケニエ?」あまりに普段耳慣れない言葉が聞こえたので、ケフカは繰り返した。

「生贄って、なんの?」

「ジッケンだよ、マホウの!!」

「魔法って…千年前のおとぎばなしのものでしょ、それは」

ケフカが訝しそうに顔を上げると、スキンヘッドが今日もピカピカの男は信じがたいっ、というように目をむいて、

「なにッ!?お前知らねぇのッ?今ベクタに作り途中のでっけえたてモンがあるじゃねえか。

大分できあがっててよ、東のほうに」

ああ、と思い当たった。前皇帝時代から着手しており、今の予算を大きく注ぎ込んでいる、

恐ろしく広大で巨大な建造物が、そういえば。そして、そこで今行われている事も。

着手時には大いに不満が出たらしいが、独裁者の決定には逆らえずに、なお今も建造は続いている。

___ガストラがいつの頃からか執着し始めたのが「魔法」だった。

それは、約千年前に繰り広げられ、世界を焦土と化した「魔大戦」、

その終焉とともにすべて失われたものというのが、一般に流布している定説なのだが…

ガストラはそれを復活させようとしている。

みなは影で失笑し、次期皇帝は気が狂ったかと首を振っていたが、

彼が皇帝になった時分からその研究開発を本格的に開始する事になり、

私設の研究機関を首都 ・ベクタ内に移した。

その本拠地が「魔導研究所」であり、先の建造物であった。

すでに研究はかなり進んでいると風の便りに聞いた事もあったような。

しかし、なんの公式発表もなされていない。まことに謎の研究施設であった。

「あれね…それで?」

「んで、実験のためのどーぶつを探しに来てるんだってよ」

「つまり…それって、ふつーの動物じゃあなくって…???」

ヒクっと心ならずも引きつったケフカにスキンヘッドはイジワルくにやりと笑う。

「気をつけろよ、ボーズ!」

背中を力いっぱい叩かれて、「冗談!!」と横目でにらんだが、知らん顔だ。

ジンジンする痛みをこらえて、兵士達全員と共に姿をあらわした皇帝と親衛隊、

それに追従するお偉いさん達に向かって、最敬礼する。

やはり冷たい目だ。

と、皇帝に対しての自分の第一印象が緊張のせいではない、決して間違ってはいなかった事を再確認した。

そこにはなんの感情もない。しかし空虚というには、あまりに強い眼光。

初めての謁見。思わず顔を伏せてしまったほどに。

全てを采配し、意のままに振るまい、添わぬものは切って捨てる、

しかしそれだけではない、独裁者の眼……

フウっと考えに沈んだケフカの目の前に、何時の間にか皇帝は来ていた。

赤と黒を基調とした派手な衣を揺すって、皇帝は見下ろすように足を止めた。

はっと顔をあげた少年兵よりも、20センチほどの差がある。

肩までのシルバーブロンドの髪が、更に冷たさを強調している、とケフカは思った。

「どうだ」

と一言、重くおもく、訊ねた。

少年は今考えていた事を読まれはしなかったかと、ありもしない事を考えた。が

考えながら、言葉を並べる。

何も期待はしていなかったのだろう、うむ、とその返事に軽く頷くと

「いずれ、お前の力が必要になるだろう」

言って、そのまま外へと歩き去ってしまった。

突然の動きに、親衛隊とお偉いさん達は自然駆け足になって、あたふたと後を追っていった。

姿も見えなくなり、上官が今日のメニュウを続けるようにと言った途端に

「なんなんだお前っ!? こうていへーかに覚えていただいてるってーのはっ??」

「力が必要ってっ?! 何がなんだよ、教えろよっ!」

「まったく、お前なんぞ。なんで俺じゃないんだ?俺じゃあ…」

陽気に、ジト目に晒されながら、ケフカは考えた。

なんとでも言え。僕だって分からないんだから。

軽口をたたいて羽交い締めをしてくる手を退けながら、めんどくさげにそう考えていたのは思い出せる。

 

ケフカはベッドの端に座って、切りぬきの窓から見える空を見上げた。

今夜は満月で昼間のような明るさだ。

スッと、月明かりに浄化された空気を吸って、身体にたまった夢の靄を吐き出す。

……それにしても、僕が必要になるって……やっぱり、魔法の事だろうか?

僕は実践した事はない。ただ知ってるだけだ……それに、魔法の知識を知ってるのは、誰もいないはず。

反対する父さんと母さんの目をかいくぐって、得た知識なのだから……皇帝陛下がご存知のはずはないんだ。

そうさ、別の事だ……だけど、そしたらますますわかんなくなる……

いつも着けている胸のペンダントに手をやる。無意識のくせだ。誕生日のプレゼントとして父親がくれたものだ。

銀の鎖の先に、赤い石のついたシンプルな指輪が下がっている。

そのままケフカは目を瞑り、考えに沈んだようだった。

隣の男のいびきが寝息に変わり規則的に続いている。遥か遠くで、何かがキン……と静寂を脅かした。

ふいに、空を仰いで、ぐいっと顔をしかめるとシーツを握り締めた。

月から顔を背けて、そのままベッドに倒れこむ。

ペンダントがキラン、と月光を反射して、少年の顔の光るものを青白く輝かしていた。

 

 

 

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