ファイナルファンタジーVI cefca...7
……フカ……ケフカ……ケフカ……
ああ、またあの声だ。何人なんだろう、一緒になって僕に話しかける。
でも、ケフカって言う僕の名前しか聞き取れない。やっぱり。
夢はいつも同じ、あの闇のなか。その奥から清水が涌き出るようにきこえてくる、声、声。
でも、その清さが逆に気持ち悪い。身体の真にまで染み渡って、僕を分解しようとしているみたいだ。
やめてくれよ、僕は確かにケフカ、ケフカ=パラッツォ……でもなんだってう言うのか、僕がなにをやったっていうん
ダ……メ……ダ、ケフカ……
やっと名前以外の言葉はありがたいんだけど、何が駄目なのかわかりゃしない。早く先を言って……ん?
まぶしい……光が、光?……まっまぶしいっ、やめて、焼ける焼ける、身体が燃えてしまうッ……! 熱いッ、やめてやめてくれ、
ぅうっうわあああああぁぁぁぁぁっっ
「ああああっやめて!」
叫びながら、何かの影がフッと見えた気がした、それを知らぬうちに殴りつけるように腕が動いていた。
パシッ!と手を打合せたような音がして、ぐっと誰かに腕を捕まれている事に気が付いた。
その暖かいような感触に言い知れない恐怖がこみ上げて、必死に振りほどこうと暴れまくった。
「ケフカッ、俺だよ、シヴリース! 判るか、シヴリースだ」
はぁっ はぁっ はぁっ
彼は肩で荒く息をしている事に今になって気がついた。自分が自室のベッドにいることも。
シヴリースはつかんでいた手を彼の肩において、目に真剣な光を浮かべながら
「大丈夫かケフカ。倒れたこと、覚えているかい? あの近くで作業してたから、俺も担ぎ出し要員になったんだぜ。
真っ青通り越して土気色になり始めたから、もう死んじまったかと思った」
「た……おれた? 僕がっ…?」 まだ息が荒い。
「覚えてねえの?」
「――頭の中にこう、光が広がって……それ以外は……よくは……
……君を殴ろうとしたのもその夢が原因のはずなんだけど……それもよく思い出せない……」
ケフカがゆっくりと考えながらそう言うと、安心したように息をついてにっこりと笑った。碧い無邪気そうな目にちょっとしわがよる。
「そうか。でも、まあそんだけ言葉を返せるんだ、もう落ち着いたな……良かった。
ほら、ここに粥が用意してあるぞ。シド博士がさ、あんまりたくさんの情報が頭の中に入ったからパンクしたんじゃうろうつって決まり悪そうだったよ。
初日だって言うのに急がせてしまって悪かった、とも言ってたし。
取り敢えず意識回復してホント、良かったぜ」と言いながら立ちあがった。
「じゃ、俺作業に戻るけど、なんかあるかい?」
「ん……と、では、シド博士に、回復したらすぐに行きますって言っておいてくれるかな。
……あと、ありがとう、シヴリース」
少しためらう間があって、ケフカは礼を言った。シヴリースは扉に手をかけて
「面倒かけついでになっ。
あのさ、別に礼なんていらないからさ。俺たちってさ、ダチになれそうな予感がしないか。俺はしてる…あ、ホントだぞ俺のはあたるんだからなっ」
と語尾になるにつれてアッチェレランドしてからさすがに気恥ずかしくなったか、「じゃなっ」と投げ出すように言って向こうに消えた。
ケフカはベッドの上でしばしシーツを見つめて、外を見、そしてぽつんと考えた。
ダチ……? ああ、親友のことか。
思いつくと、身体の内にさっきとは違うあったかな痺れがじんわりと走った。思わず手を胸に当てた。
あまりに唐突な言葉。そんな言葉を使われたのは初めてだった。
この痺れ。なんだろう。実感、ない。
この感覚がいったいどんな単語で表わすことが出来るのか、それは彼にとってただの痺れとは違うものとしか解らず。
小さいな頃から大人の中で育ってきた彼は親友はおろか、たんに歳の近い友人と呼べるものさえできなかったのだ。
否、それは彼の心が閉じていたからと言ったほうが正しいのかもしれない。
……わかってきた。この胸のしびれ。これは……それでいいのかな。でも正しい気がする。
彼は思った。
僕は、思いもかけなかったここで友情というものを知ることが出来るのかもしれない。もしかしたら。
――いつの日からか、人を、受け入れられなくなってしまった、この僕が。
何回だか、時計の鐘が鳴った。
目がバチッと覚める。体に何もかけずに長いこと寝てしまったらしい。
気が付くと、身体のだるさは消えて、完全回復していた。前よりも調子が良いようだ。
「おおお、ケフカ、もう大丈夫なのか? ついさっきシヴリースが伝言してきたばかりじゃぞ」
所長室をノックするとシドがびっくりまなこで訊ねてきた。
??? へ? あの? そうか、何か事情でもあって遅れたかしたんだな。
「あー……実験のことを話しても平気だろか?」
「はい、もうすっきりしています。いつでもどーぞ」
「うむ、では、……ええと、実験はどこだったかな」と例のごとくつよしかみ上げた書類を繰りながら
「おおう、あった。Bじゃな。よし、これから行って直接説明しよう。複雑なもんを扱わねばならんし、実際見なくちゃわからんだろ。
新入り君だからの」
「はあ」
二人は立ちあがると、所長室を出て、研究所の最深部へと近づいていった。
途中で研究員や作業員の居住空間を横目に過ぎる。
その道は水銀灯がついており明るいにはそうなのだが、やはり鉄板剥き出しなので重い雰囲気なのは否めない。
おまけに、壁には誰かが細工したのか知らないが、かなり神経が行ってる人間が描いたのであろう、複雑な絵模様が施してあった。
かと思えば、一転して小さな風景画が現れる。他にも稚拙な落書き、見るに耐えない下賎な言葉、幻想的な詩……
まるで、壁が額のない美術館のような様相になっていた。
更に二人は胡散臭そうに観察する嫌な光り方をした眼が、ドアの小窓からちらりと、
または直接ドアの隙間から遠慮無くじろじろと、彼をうかがっているのに幾つも出くわした。
が、上から下に視線を移すとすぐに部屋に引っ込む。
「個々の仕事に没頭しとるからの……」シドが悪いわけではないのだが、常識がふくみのある口調にさせた。
「この人体実験がとりあえず成功したら、次は魔導への挑戦になる。そのために彼等はすでに動いておるのじゃよ。
ほれ、あのシヴリース、あいつも魔法よりは魔導の方のプロジェクトの一員じゃな」
「魔導……? 魔法とはなにか違うのですか? 人工魔導士を造るのではなくって、他になにかもっと目的があるのですか?」
ニンゲンよりも模様の方が気になるケフカは、それを一つ一つ眺めながら訊ねた。
魔導……そんな用語は、初めて聞いた。
少しばかり無意識にか言葉がトンガってしまったのは、ちょっとばかりの若さ。
「んんんー、魔法の力をな、他に応用できんかというガストラ皇帝のご命令だな、ま、やれと。
それでわしらは考えて提案したのじゃ、機械に魔法の力を応用することをな。まだ、青写真状態じゃが……
とりあえず、それによって、わし達はまた新しい魅力的な仕事を手に入れたわけじゃ。行けるところまで行くぞ」
「機械に? それはまた……実現できたら、凄いことですね……でも、僕は機械には詳しくないし、そっちの方には携わるのは遅くなっちゃいそうですね」
「はは、魔法のほうもやることはいっぱいあるから心配せんでいいさな。
で、その研究開発は、今わしらをじーっと見とった奴等がするのじゃなあ。ういや、有能なんじゃ、ただちーっとばっか、人間が出来とらんだけで」
「……
それって大事じゃないですか? マッドサイエンティストになってますよ。」
ケフカが意気込んで言うと、シドはバチンと両目をつむる不器用なウインクをした。
「もうわしら、わしとお前さんも、もうマッドサイエンティストに全身突っ込んでいるんじゃよ。
お前さんがずば抜けての最年少だがの〜〜〜」
そうシドが言った途端にケフカの頭に赤い光が広がったその直前の感覚が甦った。
”来る!”と青ざめたが、冷汗がつーっと頬を流れると、それは引いていった……
「気を悪くしたかの……?」と、ちょっと心配げに顔を覗き込むシドに軽く手を振って大丈夫という意思を示す。
しかし、頭はそれが残していった後遺症が色濃く。
なんだろ、こんな事、今までにあったかしら……
「では、実験体の話をしようッ」
と話題を切り替えるようにシドは殊更明るい口調で言った。
「前に話したとおり、5歳ちょっと前の女性体を使う。理由も前に話したな。
お前さんと一緒の孤児でな、最もその子は二親を早く、赤ん坊の時に亡くしたんだがの……
名は、セリス=シェールという。いい名じゃのー。
精神、身体、ともに健康。しかし、ちょっと痩せぎす……とか言って、ほとんどお見合いじゃな……
―――おい、お前さん、まだやはり疲れとるんじゃないのか?」
その子の名前が出た瞬間、ケフカの足は止まっていた。
せりす=しぇーるぅぅぅっっ!?あの兵舎にいた子ぉぉぉぉっ!?あの子を使うのか、あの子がここに来るのか、あの子が魔導師になるのか、あの子が、あの子が……
色んな思いが心を駆け巡ってなかなかケフカの意識は現実に戻ってこない。
これも幻獣と一緒で情が移った訳ではない。彼は実験動物――と言ってはさすがに悪いが――を、
それはそれ、と決めつけられる実験者の冷酷さをすでに身につけていた。
ただ、一応とはいえ1度はニアミスした知っている人間だったから、少し、そう少し、動揺しただけのこと……
ビックリ顔の少年を見て、マッドサイエンティスト達の長はニヤッと笑った。
「ん〜?思い当たるよーじゃな。その子に手出しでもしたか?」
と下世話な話題を持ち出した男にぶんぶんと激しく首を横に振ってしまう。まったく!
知っているのだ、同じ兵舎にいた事……だったら早く言ってくれればいいのに!人が悪いんだから……
自分の思ってることの不条理性を意識しつつもむむむっと眉を寄せて見せるが、シドは知らん顔だ。
「ココが魔力注入研究所じゃ」
と悪戯が成功したときのウキウキした声で告げると、その重い鉄の扉をギッと開けた。
セリス=シェールはその日には来ず、次の日の朝にやってきた。
なんとチョコボに大きな荷物をのせて、一人で乗ってやってきたのだ。
あの兵舎からの道程は結構あり、モンスターも出るというのに。
更に彼女ははっきりした口調でタンタンと語った。簡単に言うとこうだ。
町を巡回するベクタ兵士が家出と間違えて追い出そうとしたので、その兵士を巻いているうちに日が暮れてしまい、
しょうがないので宿屋――町の一般人を捕まえて聞きまくったそうだ――に泊まり、宿屋のオヤジにどうやったのか部屋をタダにしてもらい、
次の日の朝、つまりついさっき城に行って、帝国史上初の女子(おんなのこ)単独謁見を賜ったばかりだったらしい。
ガストラ皇帝の命令書を携え、彼女は堂々と魔導研究所へやってきた。
「……気の強い子じゃの」
それを直接本人から聞いた後ボソッとシドがつぶやき、その場のみんなが頭を縦に動かした。
「気の強そうな子」ではないところが、彼の心境を物語っていたと言える。
ケフカは初めて彼女の顔をまともに見たのと、その話しの凄さ――5才にもなっていないのだ!――に唖然とするばかりであった。
見た目と違い、凄まじいものを秘めているようだ。が、キュッとしめられている朱の唇と、じっとシドを見上げる眼がそれを容易に予見させた。
「今からすることは、わかっておるのかな?」
と、シドが不慣れなあやし声で言うと、
「ええ」と作った大人びた口調で彼女はこくんと頷いた。動作はちゃんと子供らしい。
「魔法の力ってゆーのを、あたしのからだに入れるんでしょ?実験第1号ってわけよね。
でもあたし、条件付けたの。
コーテイヘイカ(ちょっとたどたどしい)にちゃんと言ったのよ。
お気に入りのあんてぃーく絵本、住む部屋に置いとくことはできますかって。
コーテイヘーカは首を振って、ちゃあんと約束してくれたわ。
こわい顔してたけど。
そして、あたしにも言ったの。あたしがコーテイヘーカにチューセーを誓うかって。
あたしわかんなかったから、近くの兵士さんに『チューセーってなんですか』って訊いたの、
なのにその人ったら、こわい顔してるからもう一人の人に聞いたら、『コーテイヘーカの言うことをちゃんときくかって事さ』
って教えてくれたの。
あたし、コーテイヘーカが引き取ってくれなかったら、多分死んでたわ。お父さまもお母さまも、顔を知らないんだもの。
寒くって何にも無いのしか、覚えてない。ずっとあそこで暮らしてたんじゃないのよ、おじさん。
育ててくれるってゆうんだったら、お礼はモチロンするものでしょ?
だから『はい』って答えたらこれくれた……どうしたの、おじさん?」
セリスが声をかけて、やっとシドたちは自分が床にへたり込んでいるのに気が付いた。
やっとの思いで立ちあがると、シドはそのガストラの命令書を開き、彼女が間違い無く約束した実験体であり、
セリス=シェールであることは疑いないことを確認した。
そしてもう一つの書類が付け加えてあり、きける範囲内で彼女の要求に従うようにと書いてあった。
皇帝はこの気丈なお姫さまが気に入ったらしい。
やれやれ、とそれを巻いて、シドは出来るだけにっこりとセリスを見返した。
「ここはこれから君の家になるんだよ。今この場におるのはむさくるしいモンばかりだが、世話をしてくれる女たちもいる。
気に入ってくれると良いんだがの」
「すこし、ね。ここって剥き出しの鉄ばっかりね。でも、その方がこれからはいいのかも」
し……ん、と部屋が沈黙に鳴る。
この子は本当にこれからのことを分かっている。
そしておそらく、子供特有のカンのよさで、漠然でも悟っているのだ。
自分の人生の恐ろしく危なげで、それでいて引き返せない、その未来、鋼鉄の、道を。
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