ファイナルファンタジーVI cefca...8
それから数ヶ月が経った。
魔法力注入実験は今のところ失敗とも成功とも言い難い。
セリスは元気に女たちの手伝いをしている。
料理を運ぶこと、食器を並べること、洗濯モノの乾き具合を見るのが彼女の主な仕事だ。
研究するだけが能の男ドモに、健全な毎日が送れるワケが無い。
食事は? 洗濯は? 掃除は誰がするってゆーんだっ!?
と言う訳で、魔導研究所(もちろん生活スペースにだけだが)には研究員たちの他に、世話役の女たちがいる。
いずれも帝国領内から集められたしたたかで賢く、暖かい人情の元娘たちだ。
まさかこんなトコに女の子なんて考えてもなかったわ、娘がまた出来たようね、とセリスの面倒やしつけも良く見てくれている。
忙しい雑用の合間に、セリスに歌や髪の結い方などの女の子エトセトラも教えてくれていた。
が、ケフカ自身は実験以後、彼女と直接顔を合わせていない。廊下ですれ違うぐらいである。
だがその様子は逐一『観察』していた。
今、彼女に注入され浸透している魔法力はいつのその定着を終るかは分からない。
(まあ、初の実験なので、それは予想としてあるのみ、なのは理解されるところであろう?)
過去幾度かの実験の結果、今のところ、彼女には魔法は使えていない。
これはまだ定着していないものと考え、その期間を知るために彼女の観察記録を彼が作っているのだ。
それだけでも結構な忙しさだというのに、更に呪文開発の仕事も同時進行になっているのだ。
古文書から解読された呪文は幾つもある。だが、それを全て唱えれば使えるかは問題だ。
その使う者のレベルに応じて覚えられる呪文が決まるらしい。
ついで呪文には詠唱がある。すでに解読されている呪文は、長い詠唱ではない。
ケフカは現在、いくつかの高度呪文の詠唱を断片的に発見していたがまだ解読しきれてはいない。
どんな未知の実験にはそうであるが、時間が要る!
自然の魔導師には「習得するべき時がくれば自然と身につく」ものらしかったが、
今の時代の人造魔導師に千年前のそれが通じるかどうかは、疑問だ。
むしろ、通じないと考えるのが普通だろう。
何か、特別なものがなければ・・・・・・
「彼女は覚えられるかな・・・・・・呪文の系統でも複雑なのに、
呪文の詠唱は、って解読したのだけですけど、全て違うんですよ。
ケアル、ファイア、ブリザド、サンダー。
こんだけ覚えられてもあの子の年じゃあ、対したものです。
まあ、詠唱を覚えても魔法を操れるかどうか。そこに、何か未知の物が必要なのかもしれないし・・・・・・不安材料ですね」
不安を織り交ぜてケフカが所長に報告していると、近くにいたテュルクがいつもの通り、ムスッとしたままいった。
「覚えられるし、操れる。絶対にな。」
と去っていく彼の背中を眺めながら、二人は肩をすくめて「あの自信はなんなんでしょうね」と、どちらからともなく口にする。
毎度の事であった。
「まあ、焦らずにじっくり、じゃよ。数ヶ月、いや、数年かかってしかるべき仕事と思ってよかろうて」
ぽんぽんと肩を叩くそれもまた毎度の事である。
ケフカはあまり忍耐強くない。焦らずじっくり、というのは彼にとっては苦痛であったが、相手があることなのでしょうがない。
”長いな、先・・・・・・”と息をついて、食堂に行くことにした。
行くとシヴリースが待っている。どうしようもない時以外は、毎日彼と会って食事をするのが習慣になっていた。
かれは魔導研究の機械開発要員として回されており、ケフカとはまったく作業の内容が異なっていた。
「こっちも長くなりそうだよ」とシヴリースは精力的に肉にバックリとかみつくと盛大に口を動かして一気に飲みこんだ。
ここの料理はなかなか栄養抜群だ。
「ほら、こっちはさ、なんせ初めての大仕事、魔大戦の時代にもなかった事だろ?
手がかりってのがすくなくてさ、も、1歩進んで2歩下がるって感じだよな。まだノミほどだって進んでないよ、実際。
でも俺はやるぜぇぇ、ぜぇーったい完成させたる。生涯掛けてな。全く良い仕事見つけたもんだ、俺って」
といって、カハハハと笑う。
「お前もさ、あのセリスってゆー子の事でいらつくんじゃねーよ。ほら食べな食べなっ、体力つけとかないと身が持たないぜ。
ただでさえ弱っちい身体してんだから。」
ケフカはうん、と野菜をつつくと、さっさと口に運んだ。
『どうしよう・・・・・・あの事、いってもいいのかな・・・・・・でも、ぼくの問題なんだし・・・・・・』
と噛み砕きながら、へやの向こうを眺めて考えた。
時々、気を失うのだ。一人でいる時が多いので助かっているが。
その感覚がある訳ではないが、知らぬ間に時間が経ち、その間の記憶がすっぽりと抜けている。
この前も、部屋でサンダー系と思われる呪文の解読を試みていた時にも、気がつくとベッドに寝ていたことがあった。
ただ熱中しているだけにしては、関係ない時がある。
時計を見ると約10分ほどの出来事だったらしい。
別に他人に迷惑を掛けてるようでもないし、それの後に疲れてたりすることはあったが、それだけ。
ただ、昔にはなかった。
この研究所に来た、それも、幻獣の部屋に初めて入ったあれからのような気がする。
視線を戻して、スープをすすっているシヴリースの紺色の髪をじっと見入っていた。
『どうせいったって「疲れてるんだろっ」とか言って、たっぷり料理を更に盛られたりするんだろうな。』
ケフカはため息をついて、肉にかけるべく薬味に手をかけた。
さて、魔法のほうだが、それから2年近く経ったある日、ようやくその力が定着した。
実験室での研究員たちの好奇と期待の視線の中、セリスに攻撃呪文であるファイアの詠唱とその効果を教え、唱えさせる。
何回目の儀式だろうか。それは2年前から数え切れないほど繰り返されてきた。
最初はたどたどしかったそれは、今、すらすらとこどもらしい口調で唱えられた。
皆の息が止まる。
―――全ての詠唱が終った。
と同時に、セリスの身体から朱い光が迸り、目の前の空間が歪むように見え、
陽炎が一瞬立ち昇ったが早く、突如として虚空に炎が広がった・・・・・・!!
いつもは陰気で大人しい男たちの間に、怒涛のような歓声が挙がった。
初めて目にする魔法への賞賛と、驚嘆と、自分たちの偉業の第1歩に、手を打ち鳴らし、足を踏み鳴らしている。
魔法によって熾った炎はすぐに消えてしまったが、ざわめきはなかなか静まらなかった。
ケフカは叫んだ。
「成功ですか・・・・・・?!」
「おう、成功じゃとも・・・・・・!!!」
シドは顔を真っ赤にして髭をしごいていた。
片手はセリスの頭に置き、細い金髪をぐしゃぐしゃと撫ぜるつもりでかきまわしている。
セリスといえば、自分のしたことに驚きの表情のまま固まっていた。
「これが魔法なのね、シド博士」
と誕生したばかりの幼き魔導師は声を弾ませて訊いた。
「そうだ、これが魔法じゃ! 千年前に滅び、御伽噺の中に出てくるだけだった魔法じゃよ。
ついに魔法がお前の身についたのだ・・・・・・」
実験後のデータを取ると、シドは言った。
「・・・・・・さ、おいき。おばさんたちがご馳走を用意して待っているよ」
はい! とセリスは紅色に染まった顔で答えて部屋を出ていく。
それが解散命令になり、人々はそれぞれの仕事を終えて出てゆき、またある人々はさらに作業を続けるべく残った。
しかし、当分は魔法の話で持ちきりだろう。
ぽん、とケフカの肩を叩き、ウインクをキメて去ったのはシヴリースだった。
シドはテュルクとケフカの二人を所長室に招いた。
ローズティを自ら入れると、どっかと椅子に身を投げた。ひとしきり、すする。
「魔力の大きさですね。」
とテュルクが静かに、しかし鋭く言った。
「うむ」とシドは奥歯に物が詰まっているような口調で頷いた。
「確かに魔法の効果はあった。ファイア・・・・・・その名の通り、なんにも燃焼物がない状態でも、炎が出現した。
が、規模が小さい。いかに最下級の初級呪文とはいえ、本物のファイアは中型モンスターを包み込むような大きな炎が広がるはず。
呪文が未熟なのと、定着率の問題だと思うのじゃが・・・・・・セリスには大変じゃろうが、量を少しずつ増やしていくことにしよう。
魔力発生実験は当初の予定通りに、これから毎日とする」
「セリスの精神力が持つと良いですが」とテュルクが口を挟んだ。
「あまり多くの呪文を使用すると精神力が持たず、しばらく使えなくなってしまうと」
「経験を積まないとその容量は大きくなりはしませんし、強力な呪文になるほど精神力の消耗は激しくなる、とあります」
と、ケフカがいいそえた。
「その限界点についての研究は、これからのデータ採取じゃな」と、シドはため息をついた。
「精神力の容量については、武術についてのデータも集めた方がいいかと。精神力の増減に関与してきそうです」
ケフカは1年前に剣術を始めてからのセリスの変化を示しながら、言った。
「では、その手配を頼む」
「はい」
「ふ・・・ん・・・・・・」
実験に関してのこれからについての議論の後、しばらく沈黙が続く。ズッ、っとテュルクがローズティをすすった。
―――ケフカは、その微かに立ち上る湯気の向こうの眼が自分を一瞬だけじっと見つめたのに気がつかなかった。
気付いたのはシドだった。
彼はカップから離した薄い唇をきゅっと吊り上げて微笑を作るとすぐに消し、カップの縁を手でこすった。
その微笑が嘲りのものに見え、そのこすり方が焦っているような雰囲気を出していたので、
はて、と内心、首を傾げた。
今までこんなテュルクを見たことがない。初めてだ。
いつも無表情・無愛想・無感情のテュルクが嘲笑ったり、焦っているなどと・・・・・・しかも、その感情を向けている対象がケフカとは。
まあ、気のせいかもしれんし、そうじゃないにしても研究者が、それが不当としても嫉妬や優越感を持つことは珍しくはないことだ。
いいじゃろう、いいじゃろう。今日はセリスの呪文が成功した、歴史にも残るだろう、記念すべき日なんじゃからの。
シドの意識はテュルクから離れ、我知らずニンマリとした。
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